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銀魂以外のもの置き場。
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シグサギ。やっぱり過去捏造。

*5-3



流れるように放たれた苦無は違わず的を射て、女は満足そうに頷いた。
少女の白い手に苦無は余りある大きさだったが、少女は的確にその重みを捌く。

そう、そう投げるんだよ、

愉快そうに女は言う。

笑うことを忘れずにね、

少女は頷き、作り慣れた笑顔で微笑み続けた。
その表情は既に彼女に張り付いたように、崩れる事は無かった。

少年はその傍らで、小刀を的に突き立てながら歯を食い縛った。
いつか、妹を、こんな作り物の笑顔じゃなく、

そう思いながら、既にボロボロの的をひたすら斬りつけた。









「……驚いた」
「はい?」

振り向いたオボロに、自分は顔さえ上げないでシグレは続ける。

「あの女王騎士の嬢ちゃん」
「ああ…組織の事はあんまり覚えてないみたいですけども、ね」
「…それが救いなんじゃねーの」

忘れたほうがいいよ、とシグレは短く言って煙を吐いた。

「覚えてたってロクなもんじゃねえ」
「違いありませんね」
「サギリも…忘れられたら、怒ったり泣いたり出来るんだろうな」
「シグレ君…」

影が差し込んできた話に、オボロは船窓から外を見る。
今探偵事務所船が停泊しているラフトフリートは、威勢のいい漁民達の声で活気づいていた。
フヨウはサギリを伴って、新鮮な魚介類を買い求めに市場へ行っているところだ。

「あ、私今凄い事を発見しましたシグレ君!」
「はあ?」

突如明るい声を出したオボロに、シグレは顔をしかめて
(伸ばした前髪で見えないが、しかめていたに違いない)胡散臭そうに返した。

「ミスマ…いや、リオンさんが女王騎士見習いになってるって事はですよ」
「はあ」
「なろうと思えば、シグレ君も女王騎士になれるんじゃないですか?」

シグレはぽかんとして危うくキセルを取り落としそうになる。
慌てて繕ったのち、ニコニコしているオボロにツッコんだ。

「何言い出すかと思ったら何だそりゃ!なんでそーなるんだよ!!」
「いや、誉めたんですよ?シグレ君は強いって」
「訳分かんねえよ!それに」
「それに?」
「あんたに強い、とか言われても説得力無ェ」

オボロは伊達に幽世の門の幹部を務めていた訳ではない。
今でこそ自ら戦闘には立たないものの、実力的にはシグレの上を行くのだろう。

「……シグレ君!私を誉めているんですね?ああ、嬉しいです!」
「誉めてねえぇええ!!!」
「照れ屋さんですね~」
「人の話聞いてるかオッサン!?埓が明かねえ何なんだアンタは!!」

血圧低めのシグレがムキになるのはオボロに対してだけだが、
オボロはそれを楽しんでいるフシがある。
8年前までは人形のようだったシグレが、こんなにくるくると
表情を変えるのが嬉しくもあるのだろう。
笑うと、何笑ってんだ、とまたシグレがいきり立って、オボロは益々笑うしかない。


と、不毛なやりとりは入口をくぐってきたフヨウに遮られた。

「あらあら賑やかだこと!どうしたんですセンセ?」
「おやフヨウさんサギリさん、お帰りなさい。
聞いて下さい!シグレ君が僕に賛辞の言葉を!」
「言ってねええ!!!」
「……シグレ…」
「いや、待て待てサギリ、俺は」
「まああシグレちゃんもやっとセンセを尊敬する気になったの!?」
「だから違うっつー…ああもう面倒くせえ!寝る!」

オボロとフヨウに組まれては勝てる訳がない。
シグレは心底うんざりした様子で、奥の部屋に引っ込んでしまった。

オボロとフヨウは既に世間話に移り、今日は鰤が良かったので
煮付けますからね、なんて話に花を咲かせている。

「……フヨウさん、魚、仕舞っておくね」
「あ、有難うサギリちゃん。じゃ下拵えしちゃいましょうね」

フヨウが水を使い始め、オボロも机に戻る。
サギリは鰤の切身を保冷庫に入れ、奥の部屋を見た。

「……」

ドアがほんの少し開いている。
サギリは小首を傾げてそちらへ向かった。



「シグレ」
「…んー」

何、入れば、とシグレの声がドア越しに聞こえ、
サギリは素直に部屋に入った。彼は寝台に座っていた。

「疲れるよな、あの人らといると」

シグレはそうごちて、煙草を吸おうとキセルに葉を詰め出す。
サギリは笑って、シグレの横、寝台に腰掛けた。

「シグレ、楽しそう」
「あ?んな訳――」
「楽しそう」

言われてシグレはぐ、と押し黙った。
頭を掻き、葉を詰め途中のキセルをサイドの棚に置く。

「シグレはちゃんと、笑うようになったね」
「……そうか?」
「そう。…すごいよ」
「んなこたァねえよ。お前だって」

右手を伸ばしてサギリの頭に触れ、ぽんぽん、と撫でると
サギリは擽ったそうに首をすくめる。

「お前だって、ちゃんと笑ってるよ」

サギリは瞬いて、そう、と細く言って下を向いた。

(珍しい表情だな)

シグレは瞬いたサギリにそんな感想を持ったが、
そのサギリの耳が少し赤味を帯びている事に気付く。

(……ああ)

シグレも何だか気恥ずかしくなってしまって、
うん、まあな、などと曖昧に言ってやり過ごした。

が、数十秒サギリがその体勢のまま動かない。
シグレは嫌な予感がして下を向く薄茶色の髪の間を覗き込んだ。

「……おーい」
「………」
「サギリ?」
「……あ、ごめん、寝てたかも」

がくりとうなだれたシグレは、しかし笑ってサギリに言った。

「本当だ。俺、笑ってんな」
「うん」
「言っとくけど、今笑ってんのはお前が面白いからだから」
「…そうなの?」
「ははっ」

シグレは笑いながら、笑いながらなのに無性に泣きたくなった。
目の前の妹は、笑って自分を見ている。
その笑顔は、昔とは確実に違っている。

もう少しのはずだ。

「おかしくなったら眠ィや。おやすみ」

ゴロリと横になったシグレを、サギリは相変わらず笑顔で見下ろしている。

「今日はね、夕食、鰤を煮付けるって」
「おーそいつァ豪勢だ」
「そうね」

目を閉じると、瞼にまだサギリが残っていた。
なあ、とシグレは満足気に言い、そのまま眠りについた。

「おやすみなさい、シグレ」


切りつけ飽きたボロボロの的は、多分もう捨てていい。







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ノリノリ捏造です。


2006.03.09
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(C)3mm.別部屋 ブログ管理者 東
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